講師 佐藤 拓代 氏
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演題 「これからの母子保健に期待されること」
講師 公益社団法人母子保健推進会議
会長 佐藤 拓代 氏
日時 令和6年5月27日 13時~15時
会場 茨城県市町村会館 講堂
・子育て支援機関拠点等は全国に8000ヶ所ぐらいあり,母子保健をやっている市区町村は1741市区町村。保健師たちが忙しすぎて伴走型支援でこれ以上負担をかけられない,公的機関にいる職員だけでは妊娠期から子育ての支援は間に合わないというのが,こども家庭庁のこども家庭センター設立の根底にあり,委託等によるNPO等の機関が参入していきている。市区町村における母子保健が事業をこなすだけの関わりで良いのかというのが大きなテーマにもなってくる。
・一番必要なのは,背景に何を抱えていようが何でも相談できるような人。いろんな人が関わるよりは、決まった人が関わり、この人であれば、妊娠届を出したときにも話を聞いてもらったし,何かあったときにまた相談できるぞっていう信頼関係を構築していくこと。
・母子保健業務はポピュレーションアプローチ。地域で生まれ育ったこどもたちが持ってる能力を生かすような支援が必要であり、虐待を発見することだけが役割ではない。
・妊娠届出時にじっくりと話を聞き,相談をしたいと思わせることが重要。今までの人生(親から受容された育ちか,対人関係の問題はないか,社会的スキルのレベルはどうか,困難に対応できるか,SOSを出せて他人に頼れるか等)が大きな問題となる。人に頼る力がある人たちは、弱い自分をさらけ出せる人間。パートナーとの出会い(どのような人間に惹かれるか・出会ったいきさつ・関係性)等も聞けるとアセスメントが充実してくる。
・妊娠から出産の経過の中で支援を要する場合は,産科との連携が重要になってくる。助産師・看護師が心配だと思うようなエピソードが何かあったか聞き出すことも大切。地域での子育てを支援につなげていくことができる。保健師はおせっかいばかり言うと児童福祉の方によく言われるが,事態を動かそうとする保健師たちの素晴らしい機能。
・その時々でアセスメントをするのは困難であり,アセスメントも万能ではない。何かあったら相談してきてと本人の相談を待っていては事態が悪化してからになってしまう場合がある。事態が悪化してしまってからでは,児童福祉と一緒に虐待予防の支援はできるかもしれないが、子育ての支援は難しくなる。
・母子保健事業は定期的に母子の様子を把握することができる貴重な機会であり,健診を受診してもらえるよう,ホームページや広報・通知等を通して,どんな親にもわかりやすい情報の発信が必要。母子保健法の第3条をみると乳児及び幼児が対象。特に今回のこども家庭センターの切れ目ない支援は特に3歳までが一番支援の効果が出てくる時期となってくるため,そういう覚悟を持って支援して欲しい。
・保健師と対象者家族との間の信頼は,アセスメント指向でなく話しあう姿勢が大切。指導すると上下関係が生じるので指導はしない。
・指摘することを見つけ出す出会いではなくてまずは受容。問診票のチェックができなくても落ち込ませない、「お母さん,お子さんはどうなのかな」と聞き出すような母子保健の役割を今こそすべき。支援の隙間に落とさない。嘘をつかなくてもいい信頼関係の構築をしていくことが出会いの場面においては重要。
・妊娠届出時に「妊娠おめでとうございます。(相手の気持ち)」は禁句。妊娠がうれしいと思う思い込み。「妊娠届出に来てくれてありがとうございます(こちら側の気持ち)」が正しい。おめでとうという価値観を入れた言葉かけはしない。
・支援プランについて,支援プランの提示は,次の出会いを告げるもの,次に何をしてくれるのかを示すことが相手の受け入れ状況にもつながっていく。
・フィンランドのネウボラでは, 6歳までおんなじ保健師が支援する。親よりも先に相談に行くというような関係性を構築していおり,児童福祉との連携もいち早く取り組んでいる。
・保健師と対象者家族との間の信頼は,アセスメント指向でなく話しあう姿勢が大切。指導すると上下関係が生じるので指導はしない。
・虐待予防は親ばかりに支援していくのではなく、こどもの味方になりこどもを見ることが大切。様々なスケールがあるので、正しく評価し、それを関係機関に伝えて欲しい。特に,発育曲線のプロットは重要。医学的な理由がなければ養育の問題かもしれないと考え、関係機関に共有しておくとよい。
・親をほめる言葉として,総論とした「頑張ってるね」はダメ。褒めるところないからよく頑張ってるねだけ言ってるんだというように思われることがある。各論で具体的に褒めていくことが大切。また,こどものためにではなく,お母さんのためにこういうことをやめたほうがいいよと伝える方が受け入れてもらえやすい場合がある。こどものためではなく,あなたのためということが大切。
・母の成育歴等を聞く場合,お母さんはどんな子供だった?という切り口も有効。また,将来の親子関係を考えてもらうとき,こどもにどんな親だったといってもらいたい?等もよい。
・個室での面談は,対面は避ける。子供が遊べるような教室での面談では、おもちゃを置いておいて子供に関心があるかどうか,何をやったらいけない言うか、どんな怒鳴り声で怒っているか、褒めて延ばすような関わりを子供にしているかどうか等の状況の把握できる。
・家庭訪問後の職場内でのケース共有は大変重要な機会。周囲に自身のケースを知ってもらい,支援内容に幅がでる,一人で支援している・一人で抱え込むということがなくなる。
・虐待のハイリスクの把握は難しい。虐待の場合のハイリスクアプローチは、今までの生育歴やこどもの受容等。子育て世代包括支援センターはハイリスクアプローチというよりはポピュレーションアプローチで子育て支援サービスと一緒になって、この子育ての負担を軽減するようなアプローチに向かって行く役割。これはこども家庭センターになっても変わらない役割。
・母子保健と児童福祉は、リスクの重きをどこに置いてるかが違う。母子保健は能動的。児童福祉は受動的。母子保健は、虐待まで至りそうかどうかを判断し,予防の支援を行うということが非常に重要。児童福祉は介入であり,悪化の防止のため現時点の状態が重要だが,母子保健では,現時点の状況をどのように受け止め、どのようにしようと思っているかが重要。
・サポートプランの対象・評価は,子育て世代包括支援センターの支援プラン対象者と同様。
基本項目としては,①心身の状況等に照らし包括的な支援を必要とすると認められるよう支援児童等その他の者の意向②要支援児童等その他の者の解決すべき課題③要支援児童等その他の者に対する支援の種類及び内容④①②③に掲げるもののほかに市町村が必要と認める事項。本人がこういうサポートが必要であるという意向,どんな課題があるか,どんな支援をしていくか。
・一体的サポートプランでは,母子保健と児童福祉が一緒になってケース合同会議を開いて、ご本人もできたら入ってもらって作るサポートプラン。ご本人が希望するところが何もありませんって言ったらもう行き詰まる。児童福祉機能と母子保健機能の連携協力のうえ,リスクセスメント(国立成育医療センター作成)等を使用し,統括支援員と相談の上、行動ケース会議等と開催していく。
・サポートプランの目的・目標は一緒に解決したいこと。妊娠届出時の全数面接等を通し,担当が気になるところ、ご本人の心配事等を踏まえ,一緒に解決を目指したいことというのが良い。出産、子育てを一緒に応援していきますっていう私たちの思いを書くのがすごく受けとめてもらええた。
・妊娠・出産・子育ては誰に頼れば良いかわからない。あたりまえに分娩することがすべてではない。出産費用負担がゼロになったら,産後ケア事業を受けたい人が受けることができたら,身近なところで利用できる子育て支援があって,ほめてくれるような支援があって生活ができれば子育ての負担も軽減する。目指すのは地域の実家化。パートナーと2人で子育てをするのではなく、関わる支援者が周囲の調整をするという覚悟をもって妊娠出産から関わっていけたら良い。
≪質疑≫
石岡市:
今年度から今度こども家庭センターを立ち上げ,母子保健と児童福祉一体化して、保健センターの中に開設。支援のヘルパー等のサービスを作っていく・育てていくためには、どのようなところに力を借りればよいか。
➠高齢者のサービスはあるが,こどもを対象としたサービスはなかなかないのが現状。医療的ケアを受けるこどもさんたちに対する医療の訪問看護も,高齢者を対象にしている事業所が担っている状況はある。
母子保健の育児支援として希望する内容でアンケートをとったことがあった。まずはどんな内容か,中身を知ってもらい,聞いてみたいと思っている人たちを集めて研修をして、サービスへ進めていったというところがあった。相手方から「何かありますか」と言ってくるのを待っていては新しいサービスを始めるのは苦しいかもしれない。
ありがとうございます。
常陸大宮市:
合同ケース会議に対象者の方も含めた方が良いという話だったかと思うが,それは妊娠届出時の面談の後に、その母子保健担当と児童福祉の担当と対象者が口頭でお話をする機会を作っていくという認識でよろしいか。
➠最初が肝心。当事者が入らない形でサポートプランを作ったとしても,誰が本人に渡しに行くか等の問題がでてくる。できれば,ご本人もいる場で、あなたもやって欲しいなと思うようなことをおっしゃってくれたらいいからちょっと30分だけでも時間いただけませんかという形での3者合同面談が出来ると良い。合同ケース会議に至る前の信頼関係づくりが今まで以上に重要になってくる
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