講師 栁澤 尚代 氏
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令和6年度水戸・日立ブロック合同専門研究会【Zoom研修】研修報告書
1 日時 令和6年11月25日(月) 14時~16時
2 内容
演題:「保健師記録の基本的な考え方と書き方について」
講師:公衆衛生看護記録研究会
代表 柳澤 尚代 氏
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【この研修会が目指したいこと】
(1)内部研修の実現
職場で、継続的に知識の更新、学びなおし及びスキル開発のための事例検討をどのように実現していくのかをイメージできる。
(2)システム化 職場で、継続的に記録改善が可能な仕組みを考える。
【Ⅰ.保健師が書く記録の実態と課題を共有する。】
事前アンケートから見えてきた課題
・職場で、困りごと・悩み等を話し合い、課題を保健師全員で共有できていない可能性がある。
・職場毎に、記録担当者を決めたり、記録様式の選択、マニュアルや略語事例集などのルールの作成は未整備な可能性がある。
・職場の事例検討会で、アセスメントをブラッシュアップするなど、継続した学び直しの場が不足している可能性がある。
・記録への認識や関心を高めたり、上司および同僚からの指導および指摘を受けるなどの学び合う環境が不足している可能性がある。
記録のあるべき姿
・関係者間の情報共有のしくみが整備されている記録
・支援課程の的確な記述がある、実践の思考過程が見える記録
記録に関する問題の全体像(看護記録の開示に関するガイドラインより)
・問題解決思考が身についていない
・看護過程を用いることができない ⇒これらの背景があり看護記録が書けない
・看護の専門領域の役割・機能が不明確
【Ⅱ.記録作成のための基礎的知識を共有する。】
保健師記録の法的根拠
・感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律
第53条の12 結核登録票
・母子保健法
母子保健相談指導事業の実施について対象ごとに相談・訓練の内容を記録し、整理
・精神保健及び精神障害者福祉に関する法律
対象ごとにケース記録を残し、継続的な相談指導業務で使用する
保健師記録の要件
定義1 保健師活動における実践の思考と行為の一連の過程を示すもの
定義2 所属組織における公的文書として位置づく記録
看護記録の目的とは
記録とは、ある目的のために関連した情報を文字で伝達するコミュニケーション手段。保健医療チームでは1人の対象に複数の人間がかかわるため、情報を正しく共有することが必要である。
目的1
保健活動を保健師および他職種と推進するための情報交換ツールである
目的2
保健サービスの質を保証するための資料となる
支援内容の妥当性、最適正・最善性は維持されたか、公正性は保持できたか、効率性
目的3
保健師記録は保健師活動の評価、実践活動の成果を蓄積する資料となる
保健師教育、研究の資料となる
目的4
保健行政サービスの適正実施を説明する公的文書
保健行政としての説明責任、情報提供者としての責務
公的機関としての法的根拠・公平性に基づいたサービス提供など、これからの経緯や要件の適正さを証明する。
記録様式
・看護記録とは看護実践の一連の思考と行為のプロセスを記録したものの総称であり、記録は保健師の支援課程を可視化するものである。
・記録は、看護実践の証を残すと同時に関係者間の情報共有上最も重要な手段となる。
保健師記録の要件
(1)文書規定
各自治体で定めている文書規定=公文書としての取り扱いになっているか
開示方法、記録の定義・目的・種類・内容・保管管理
(2)種類・技法・記述法
・記録様式
経時的、PONR、フォーカス・チャーティング、POS、SOAP、フローシート、クリニカルパスなど
・記録のマッピング技法 ジェノグラム、エコマップ
・記録の記述法 叙述体、要約体、説明体
(3)記録管理
・作成 ガイドラインの整備、研修会、事例検討会
・管理 供覧システム、共有のキャビネット、管理方法、責任者など
・廃棄 文書規定、保存年限(虐待案件など保存期限が長期間保存になってきている)
【Ⅲ.看護実践のプロセスを思考過程として示す能力とは何かを理解する。】
看護過程とは、“看護とは”の目的意識をもった実践のプロセスであり、基本的には患者と看護職の関わり・相互作用という原点を内包しつつ、患者の持つ健康問題を解決に導く道筋であり、方法論としての問題解決法である。
情報収集→分析的なアセスメント→全体像の描写→看護目標・看護上の問題の抽出・期待される結果・ケアプラン→実践→評価→情報収集 とサイクルをまわす
Plan:データ収集、アセスメント、問題の明確化、計画立案
入ってくる情報に基づいてどんなことを確認、把握するか
Do :実施 支援の実施
See :評価、再アセスメント
当事者や家族の反応、保健師活動の振り返り・評価
記録様式の記載時の注意点
・記録に残さなくてもいい情報もあるため取捨選択する
・目的と収集した情報が合っているか
・助言した内容に対する当事者及び家族の言動を反応として具体的に記載する
・不足情報も書いておく
・「上手そう」といった主観的で曖昧な表現ではなく、支援・指導・助言の必要性を念頭に置いた表現にする
アセスメントとは
クライエントの健康問題を明らかにするために、クライエントや他の情報源から健康状態に関する主観的・客観的データを収集し、保健師の視点からその情報を分析・解釈すること。
保健師が書き残すアセスメントの要素
・生活状況での問題の記述
・支援・指導・助言の必要性を念頭に置いた保健師がとらえる問題構造の記述
・支援の緊急度、優先度、支援の時期やサポート体制整備の必要性、今後の計画の記述
【Ⅳ.表現能力を高めるポイントを理解する。】
事実とは:根拠をあげて裏付けできるもの
・直接経験の事実 自分が直接見たり聞いたりして知った事実
・伝達の事実 他人の口や筆を通して知った事実
意見とは:何事かについて、ある人が下す判断である。他の人は、その判断に同意するかもしれないし、同意しないかもしれない
記録で注意深く行うこと
・病状や診断、治療など医師の領域に踏み込んだ書き方をするとき
(例 認知症と診断を受けていないのに認知症とは書かない)
・利用者の態度や性格などについて否定的な内容の記述をするとき
・その他の利用者との信頼関係を損なう恐れのある事項を記載するとき
【Ⅴ.情報開示をめぐる諸問題を理解する。】
情報開示の歴史的経緯
1995年 インフォームド・コンセントのあり方に関する検討会
1997年 医療法の改正 1999年 情報公開法制定 2003年 個人情報保護法
個人情報とは
「個人情報」とは、生存する個人(最近は亡くなられた方も取り扱う)に関する情報であって、氏名、生年月日などにより、個人が誰であるかを識別することができる情報を言う。(メモであっても識別できるものは該当する)個人の身体、財産などの属性に関する情報も、氏名などと一体となっていれば、「個人情報」にあたる。
個人情報保護法第23条第1項
個人情報取扱事業者は、個人データを第三者に提供する場合、原則としてあらかじめ本人の同意を得なければならない。
情報の扱い方の具体例
・「あなただけに話す、他の人には言わないでください」と言われても、必要な情報とは何かを判断して記載する。なぜ言わないで欲しいのかの理由を確認することが重要。
・同一家族内で夫に知られたくない妻からの相談の場合、知られたくない理由は何かについての記載が必要。夫から妻の相談記録の開示請求があった場合、家族であっても第三者に相当する。
・虐待事例の場合、子ども自身が話した情報は親と子ども利益は必ずしも一致しないので、非開示相当。
・正式ルート外で他課から得た情報を記録に残す場合は、残す根拠、支援に必要な情報である等の理由を明記。
・虐待事例のため本人同意は不要の場合、何故本人同意が不要かの保健師の判断を記載。
【Ⅵ.演習~活動の質向上に向けた記録の書き方】
事例資料をもとに演習
・今回の訪問目的 水戸市より考えた内容を発表
・アセスメントしたこと 日立市より考えた内容を発表
【質疑応答】
・水戸市より「介護保険分野での高齢者対応の記録には目標があるが、保健師記録には目標の設定がないのは理由があるのか?」
→対象者は1人1人実態が違うため、実態を把握して分析していくのが保健師記録。そのため目標ではなく、目的からの記載となっている。
・かすみがうら市より「あなただけに話すけど他の人には言わないでねと実際言われたことがあり、どこまでを供覧するのか判断が難しい。どう対応したらいいか?」
→なぜ秘密にしたいのか理由を本人に聞く。秘密にしたい内容に重要な情報が多々ある。仕事が継続していくためには、行政の一部署で働いているという観点から考えると、秘密にする内容は何もない。
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