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令和5年度市町村保健師研修会【Zoom研修】

更新日:2024年01月31日

講師 遅野井 健 先生
講師 遅野井 健 先生
町村保健師研修会事業報告

(1)講演「糖尿病カードシステムの活用について
       ~糖尿病の保健指導に役立つツールと実例~」
   講師 那珂記念クリニック 院長 遅野井 健 氏

糖尿病カードシステムとは,多様な患者ニーズに応じた療養支援をタイムリーに提供するための標準的指導ツールであり,昨年度から茨城県のモデル事業として位置づけられている。日本糖尿病協会では,糖尿病連携手帳やカンバセーションマップ,DVDなど様々なツールを提供しており,糖尿病カードシステムもそのひとつである。

糖尿病の治療において,重症化予防のため血糖のコントロールが必要な方には,糖尿病の知識など適切な情報提供を行い、行動変容を促していく必要がある。血糖のコントロールには,生活習慣の見直しをベースとして,薬物療法を行っていく。血糖コントロールが悪いと薬物療法がメインとなる印象があるが,生活習慣の見直しの比率が下がるわけではない。むしろ薬物療法の割合が多くなれば,生活習慣の見直しもこれまでより多く必要となってくる。常に生活習慣の見直しという土台の元に薬物療法を行って初めてバランスのいい療養指導ができる。
 療養指導を行うためには,患者さんのバックグランドを把握し,この人に必要な情報は何か,どういった情報が必要か,どのような順番で伝えていくことが有効かといった計画性を考慮して指導を行っていく。それを一過性ではなく継続していくことが必要である。
糖尿病診療における理想的な療養姿勢とは,疾病を正しく理解し療養に必要な技術を把握した上で主体的にかつ前向きに取り組むことである。糖尿病があってもなくても同じような人生を送れるようにすることが最終目標であり,そのために医療者は,患者さんの現在の状況を正しく伝え,糖尿病教育を継続的に行えるよう支援していくことが求められる。個別指導,集団指導とそれぞれの制限や課題があるなかで,これらの課題を解決しより多くの人に適切な指導をするために作成されたツールが糖尿病カードシステムである。
糖尿病カードシステムでは,指導内容を細分化することで患者さんに必要な情報を取捨選択し,再構成することが可能となる。また,指導内容をシンプルにしているため,外来での待ち時間等を利用し10~15分と短い時間で指導することができ,さらに経験の少ないスタッフでも指導を行うことができるため指導者不足にも対応できる。指導を繰り返すことで教えられる内容も広がるためスキルアップツールとしても有効である。
指導した内容については,糖尿病連携手帳に記載することで,院内,地域の医療機関や行政保健師等関連機関と共有することができる。連携手帳を活用することで,専門施設での療養指導内容がオープンになり,かかりつけ医が教育入院の内容を把握できるなどかかりつけ医と専門施設との連携も可能となる。

(2)糖尿病カードシステム運用の実例とロールプレイ
  講師 那珂記念クリニック
  副院長 道口 佐多子 氏
  臨床検査技師 塩澤 奈々 氏
  管理栄養士 横田 由夏 氏
  薬剤師 阿部 佳菜子 氏


 糖尿病の指導を行う際には,糖尿病に関する知識や生活習慣に関することなど非常に多くの項目を伝えなければならない。その際に,約100種類のカードとカードのタイトルに対応したリーフレットから個々に必要な内容を組み合わせて指導できるのがこのカードの特徴である。
 実際に療養指導を行う際には,治療方針を理解し共有しながら,生活習慣改善への前向きな姿勢を作っていかなければならない。また,療養指導は疾病概念や管理基準に準拠した自己の病状把握ができるようにすることを目的として行う。目的達成のためには,スタッフ自身も病態をしっかりと理解している必要があり,1枚ずつカードを理解することで自分自身のスキルアップにつながる。

糖尿病カードシステムを使用し指導する場面をロールプレイ(RP)で行う。

RP1:45歳,男性。検診で毎回指摘はあるが,自覚症状がないため放置。仕事が忙しく行く気もなく必要性を感じていない
・訪問前に対象に必要なリーフレットを郵送。リーフレットには対象に応じた手書きのメッセージを記載して郵送する。
・家庭訪問の場面へ(RP)。
先に郵送したリーフレットを元に説明する。日常の生活状況を確認し,必要な保健指導を実施,受診へとつなげていく。話をしながら対象に必要な内容をリーフレットに書き込んでいく。また,話を聞きながらその人に必要な指導をする際には,新たにカードを追加し説明する。

 実際に地域においては,忙しい,診断されたくない,無症状(危機感が持てない),社会的イメージが悪い,制限されたくないなどで,関わりを拒否されたり受入が難しいことがあるのではないかと感じ,受診勧奨対象者へのアプローチ案を那珂市に提案した。受診勧奨を行う際に必要なリーフレットを選択し,検査データやメッセージを手書きで記入し郵送した。訪問の際にも同じリーフレットを持参し,指導を行うことを提案した。健診から1年以内に受診される方は半数弱程度であり,4年以上かかる人もいる。

RP2 50歳,女性。罹患期間20年。HbA1c7.0%。随時血糖146mg/dl
医療施設から腎症重症化予防に向けて保健指導の依頼あり。

保健師の訪問
・特定健診の検査値から腎機能が低下していること,腎臓の働きや腎臓の検査について説明
・腎臓の状態,4期,5期に進まないようにしていく
・これからの目標値を決定 HbA1c7%未満,家庭血圧125/75未満,塩分制限

管理栄養士の食事指導
・取り組まれている内容の確認
・食事療法について
・水分の取り方について
・運動量や注意点について

糖尿病腎症に対し,腎症パスに基づき6ヶ月ぐらいに分け,病状の理解,生活行動変容の必要性を指導し,具体的な生活行動への支援とサポートを行う。
腎症重症化予防に向けては,かかりつけ医と行政との連携が有効である。医師が現状を説明した上で,行政に保健指導を依頼し保健師が保健指導を行う。腎症3期では,自己管理に問題があった患者が多い。この時期は合併症の進展防止が重要であり,悪化させないために個々の病気に合わせた生活のための指導を行う。
指導時にはリーフレットに指導内容を記載しながら話をする。リーフレットそのものに文字はたくさん書いてあるが,指導者が書いているところをじっと見ている。書いてくれているのだという想い,また後から見たときにこういう話をしたのだと振り返りにもなる。

講師 道口 佐多子先生
講師 道口 佐多子先生
研修会風景
研修会風景

 

 

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