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令和4年度日立ブロック専門研究会【Zoom研修】

更新日:2023年01月13日

講師 金丸 隆太 氏
講師 金丸 隆太 氏
事業報告

令和4年度 日立ブロック専門研究会(Zoom研修)

<日時>
令和4年12月23日(金)13時30分~15時30分

<内容>
講演「早期支援を避けたがる親の心理:支援に対して抱いている不安を理解する」

講師 茨城大学 人文社会学部 人間文化学科 准教授 金丸 隆太 氏

〇子どもが減ると期待が高まる
・守泉理恵(2008)は、現代の日本において、女児選好への傾向が進んでいる理由について、特に母親が女児に対し明確に自分との関係性を期待していると述べている。
現代の子どもは、大人の明確な意思と計画によって親のために「作られる」ものであり、「授かりもの」ではない。そのため、思った通りに育たないことは、親に違和感をもたらす。
〇日本人の理想
・日本人が求める根本的な理想とは、「人と違わないこと」である。人と違いすぎると「目立ち」、それは「変」だと捉えられ、結果的に「嫌われる」のが我が国の文化である。
〇子どもの障害受容
・中田洋二郎(1995,2002)が主張する「子どもの障害受容・螺旋形モデル」では、①旧来の段階的モデルに反論(ショック→否認→悲しみと怒り→適応→再起),②障害受容に到達点はない,③受容と否定は常に表裏一体であること。ライフイベントの度に、喜びと(適応)と否定(落胆)を繰り返す。
〇障害児の子育てを嫌がる親達
・発達障害は身体障害と異なり、外見ではほとんどわからない。それは親に「自分が発達障害と認めなければ、この子は障害児ではない」という選択肢があると誤認する余地を与える。
〇障害の社会モデル
・障害はその人の体によって作られるのではなく、周囲の社会によって作られる。発達障害者は、本人の特性によって障害者になるのではなく、特性を受け入れられず無理をさせる社会によって障害者になる。そのため、多くが小・中学校で苦労する。
〇親の苦労という現実
・「皆と違った個性的な子」が「障害児」になってしまう我が国では、そういった子どもを育てる親に大きなストレスがかかる。そのストレスは、子どもの年齢によって変化し、将来的な苦労を予見するからこそ、親は早期診断、早期支援を避け、「うちの子には支援は必要ない」と思いたがる。

〇支援の意義
・親のストレスは、強く「常識」を求め、人と違うことを嫌悪し、目立つことを好まず、出る杭を打とうとする日本の文化がもたらす。
・支援は、障害の社会(生活)モデルを意識し、個人よりも環境を変えていくこと、環境調整が重要である。しかし、今の日本はまだまだ過渡期であるため、この先、本人があまり困らないように、本人がよりよく生きられるようソーシャル・スキルとして教えるのが、様々な療育・支援の実際である。
〇障害児の子育てだけが大変なのか
・障害児の子育てだけが大変ではなく、健常児、定型発達児の子育てにおいても大変である。現代の大人は子育てで苦労したくない。だから生まない。苦労を完全に避けるための手段が、子どもを生まないこと。子育ては大変だというイメージが、無意識にのうちに「子どもはいないほうが良いんだな」と思い込んでいくこともある。「子育ての楽しさ」「大変であっても楽しい」と若者に思ってもらうことが重要。
〇早期支援に対して抱いている不安
・早期支援を避けたがる親の心理の中心は、子どもに障害があることで社会から差別されることに対する不安がある。そして、ただでさえ大変そうな子育てがより大変になり、子どもが理想通りに育たないことへの不安がある。
・早期支援について、児発などの見学を勧められた時点で差別される側に回る第一歩となる。受診を渋るのも同じ。支援者は、その事実を求めた上で、「それでも早期支援は重要だ」と自信を持って主張しなくてはならない。
〇不安の支援を考える
・支援を勧める際の親の不安を考えること。それは、不安を理解し、不安の軽減を支援し、そして必要な支援につながるためである。親の不安を完全になくすことは不可能であるが、ある程度の不安は残しつつ、保健師の力を借りて、支援を受けるための決断をする、そのプロセスを支援し続けることが大切である。
〇支援に対する不安①「普通の子育てでなくなってしまう」
・この不安が最も重要であり、支援者はここから目をそらしてはいけない。診断を受けることへの不安、支援を受けることへの不安を具体的に聴く。
・親の不安を一緒に抱えることは支援者側も辛いが、不安の解消を急がせることなく、ともに背負い、根源的な問いに一緒に向き合う。
〇支援に対する不安②「親が失敗すると子どもが不幸になるのか?」
・早期支援を受けることを考え始めた親の大半が、ネットで検索をし、大量の情報に混乱する。そして、「親が正しい支援を選んでいかなければ、子どもは不幸になってしまうのではないか?」というプレッシャーに押しつぶされそうになる。支援者からしっかり情報提供することが大事。
〇よくある失敗
・×「親が障害児を差別しちゃダメよ」「普通の子なんていないのよ」という、先に行き過ぎたアドバイス。
・×「考えすぎず、まずはやってみましょう」「どれを選んでも大丈夫ですよ」という、無責任な助言。
・×「絶対に支援を受けた方が良い」「早く支援を受けないと将来大変になる」という、自信と責任感による脅迫。→親が自己決断できるよう、そのプロセスを支援する。
〇もうひとつの重大要素:家族
・健診や相談、支援の場に来るのは圧倒的に母親が多い。そこには、父親や祖父母の無関心、母親への責任の押し付けがある。父親や祖父母(特に父方祖父母)は、母親に発達障害の「原因」を探し、相談や支援の場に行くことすら責める。相談に急に来なくなった原因に家族から行くなと言われていることもある。母親経由で助言しがちであるが、母親をねぎらうことも保健師としての重要な支援。
〇子育てを分担・共有しよう
・人は女性を中心とした共同子育て環境を作るが、現代社会は互助・共助機能が低下しており、母親が自分で一生懸命動かないと、良い子育てを出来ないという焦りを持ちやすい。だから、親の不安は当然のこと、責任感の表れである。
・かたくなな態度の母親に出会い、支援に困難を感じることがあるだろう。それは、母親に押しつけすぎている、社会の責任である。母親が背負わなくて良い社会、親に子育てを任せず、分担し、共有する。そして、子どもの成長を一緒に喜ぶ。保健師という資格、母子保健制度は、社会を健康にするために作られている。保健師は、素敵な仕事。

〇質疑応答
<事例1>
・母親には、生育歴上の根深い思いがある。母親にこれ以上のことを期待してはいけない。今できることを伸ばす。保健師としては、小児科医と連携する。子ども自身は、特別支援学校(病弱)など教育機関に繋げることで、家庭とつながることができる。

<事例2>
・行政、児相を嫌い母親への支援。「放っておいたら起きてしまう事件をちょっとでも減らそう」という発想。要対協などケース会議を開いて関係機関で情報を共有すること,家庭訪問に行った際、母親を必ず1つ褒めて帰ってくること。母親は、「私は頑張っている」という思いでいっぱいである。母親を労うことで、30日のうち1日でも子どもへの虐待がなくなれば、1日支援したことになる。母親、家族を社会から断絶させないことが重要。

<事例3>
・これまで何度も相談勧奨し、その時は分かりましたと言うが、忘れてしまいキャンセルとなってきたが、就学前になって突然来所してきたケースへの支援。保健師側としては願うタイミングではないが、これまで保健師がかかわっていたから繋がった。特性のある母親。ADHD等がある場合、自分で優先順位をつけることは難しく、後回しにしてしまう。電話では記憶に残りにくいため、その時にカレンダーに書いてもらうなど、伝え方、残し方の工夫が必要。行政もインターネットを使った資料の提供なども検討が必要。
研修風景の様子
研修風景の様子

 

 

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